採用を考えるとき、経営者が整理しておきたいこと

「人が足りないから、新しく採用したい」
人手不足に悩む企業では、ごく自然に出てくる考えです。
既存の従業員だけでは仕事を回しきれない。新しい依頼があっても受けられない。
経営者が現場に入り続けているため、営業や経営に時間を使えない。
このような状況が続けば、「まずは求人を出そう」と考えるのも無理はありません。
採用を考えるとき、まず整理しておきたいことがあります。
それは、単に「何人採用するか」ではなく、
これから、どのような事業と組織をつくりたいのか
その中で、新しく採用する人に何を担ってもらいたいのか
ということです。
採用は、目の前の不足を補うためだけのものではありません。
事業計画、組織体制、業務分担、人材育成とつながる経営上の取り組みです。
今回は、ある中小企業の支援をもとに、
人材採用を考える際に経営者が整理しておきたいことについて考えます。
「人が足りない」の中身を分けて考える
今回の支援先は、専門性のあるサービスを提供する中小企業でした。
丁寧な仕事によって顧客から高い信頼を得ており、新しい仕事を受けられる余地もありました。
一方で、現場を担う人材が不足しているため、既存の仕事を維持することで精いっぱいになっていました。
新しい仕事を増やしたくても、対応できる人がいない。
経営者自身も現場や日々の対応に時間を取られ、新規営業や組織づくりに十分な時間を使えない。
この状況だけを見ると、「現場で働く人を増やせばよい」と考えやすくなります。
しかし、一口に「人が足りない」といっても、不足しているものは会社によって異なります。
例えば、
・現場作業を担う人が足りない
・繁忙期だけ人員が足りない
・新人を指導できる人がいない
・現場をまとめる管理者がいない
・経営者の仕事を引き継げる人がいない
これらは、すべて別の問題です。
現場の作業量に対して人数が足りないのであれば、
パート・アルバイトや短時間勤務の人材でも対応できるかもしれません。
一方、
経営者に顧客対応や現場管理が集中していることが問題であれば、作業者を増やすだけでは十分ではありません。
将来的に現場をまとめ、経営者と従業員の間をつなぐ人材も必要になります。
支援先でも、当初は現場の人員不足が目の前の課題でした。
しかし、今後の事業展開や組織体制まで考えると、将来は管理を担う人材も不足する可能性が見えてきました。
「今、何人足りないか」だけでなく、
「今後、どの役割が必要になるか」まで考えることが、採用を経営課題として捉える第一歩です。
事業の方向性から、必要な役割を考える
採用する人材を考える際には、会社が今後どこを目指すのかを確認する必要があります。
事業規模を拡大したいのか。
既存顧客へのサービスを充実させたいのか。
経営者が現場から少しずつ離れ、営業や経営に時間を使えるようにしたいのか。
将来的な事業承継や、新たな事業展開を考えているのか。
目指す方向によって、必要となる人材は変わります。
現状の仕事を維持するための採用と、次の成長をつくるための採用は、同じではありません。
例えば、現場作業を担う人を採用すれば、既存社員の負担を軽減できます。
その人が経験を積み、仕事を教えられるようになれば、教育を担う人材にもなります。
さらに、顧客対応やスタッフの配置まで任せられるようになれば、経営者が現場管理から離れるための重要な存在になります。
このように、採用時点で任せる仕事だけでなく、
入社後にどのような役割を担ってもらう可能性があるかを考えることで、求める人材像も変わります。
ただし、将来期待するものを、すべて入社時の条件にする必要はありません。
仕事に向き合う姿勢や、業務上欠かせない資格・免許など、入社時に必要なものは何か。
一方で、仕事の技術や業界知識、管理業務など、入社後に育成できるものは何か。
この二つを分けることが大切です。
すべての条件を満たす人を求めるのではなく、
必要な基礎を持つ人を採用し、社内で育てていくことも選択肢になります。
採用条件は、会社の都合だけでは決められない
求める役割が決まったら、その役割に合った働き方や処遇を考えます。
ここで注意したいのは、
会社が求める働き方と、求職者が求める働き方が必ずしも一致するとは限らないことです。
今回の支援先でも、採用活動を進める中で、
会社が想定していた勤務量と、応募者が希望する収入との間に差が見られました。
会社としては、繁忙期と閑散期に対応しやすい勤務形態を想定していました。
一方、応募者は、より安定した勤務時間や一定以上の収入を希望していました。
会社が提示する働き方が、フルタイムを希望する人には物足りず、扶養の範囲で働きたい人には少し長い。
このような中間的な条件になると、対象となる人を見つけにくくなります。
これは、求人の伝え方だけで解決できる問題ではありません。
・仕事を分けて短時間勤務を可能にできないか
・複数の勤務パターンを用意できないか
・任せる役割と給与が見合っているか
・習熟度に応じて処遇を変えられないか
といった、業務や働き方そのものの見直しが必要になります。
採用できない理由を求職者側にだけ求めるのではなく、
自社の雇用条件が現在の求職者にとって選びやすいものになっているかを確認することも、
経営側に必要な視点です。
人を採るだけでなく、受け入れる準備を整える
採用を進める際には、社内の仕事を整理しておくことも重要です。
支援先では、既存の作業マニュアルが十分に活用されておらず、仕事の教え方も現場に任されていました。
その状態で未経験者を採用すると、「何を、どの順番で、どこまで教えるか」が、
指導する人によって変わってしまいます。
新人が仕事を覚えにくいだけでなく、教える側の負担も大きくなります。
結果として、「経験者でなければ採用できない」「新しい人を入れても、かえって忙しくなる」
という状態になりかねません。
そこで支援先では、業務の流れや役割分担を整理し、作業内容を見える化する取り組みも並行して進めました。
採用と業務改善は、別々の取り組みではありません。
仕事が整理されていれば、未経験者へ任せられる範囲が広がります。
教育方法が整っていれば、採用できる人材の幅も広がります。
評価基準があれば、本人も何を身につければ次の役割や処遇につながるかを理解しやすくなります。
採用しやすい会社をつくるためには、募集を行うだけでなく、
人を受け入れて育てられる組織をつくる必要があります。
自社の仕事の価値を整理する
採用活動では、仕事の魅力を求職者へ伝える必要があります。
しかし、これは単なる求人原稿の表現づくりではありません。
自社の仕事が顧客や社会にどのような価値を提供しているのかを、
経営者と従業員が改めて確認する機会でもあります。
支援先の仕事は、一般的な職種名だけでは、専門性や社会的な役割が伝わりにくいものでした。
一方、実際には一定の知識や配慮が求められ、施設を利用する人やそこで働く人の安心を支える仕事でした。
この価値を整理することは、応募者への訴求だけでなく、
既存従業員が自分たちの仕事に意味や誇りを感じることにもつながります。
さらに、自社の提供価値が明確になれば、
顧客への説明、人材育成、評価基準、価格の見直しにも展開できます。
「どのような人に来てほしいか」を考えることは、
「自社は何を大切にしている会社なのか」を見直すことでもあります。
採用は、これからの組織をつくる経営活動
採用活動というと、応募数や採用人数に目が向きやすくなります。
もちろん、必要な人数を確保することは重要です。
しかし、採用した後の役割が曖昧で、教育する仕組みもなく、会社と本人の働き方にズレがあれば、
長く活躍してもらうことは難しくなります。
採用を考えるときには、
・今後、どのような事業をつくりたいのか
・そのために、どのような組織が必要なのか
・現在、どの役割が不足しているのか
・入社時に必要な能力は何か
・入社後に何を育てるのか
・会社として、どのような働き方を用意できるのか
・採用した人を、誰がどのように受け入れるのか
を整理する必要があります。
そのうえで採用条件や募集方法を決めることで、採用は単なる人員補充ではなく、
事業の成長を支える取り組みになります。
もし現在、
「どのような人を採用すべきか分からない」
「採用しても、なかなか定着しない」
「人を増やしても、組織がうまく回らない」
と感じているのであれば、採用条件や募集方法だけでなく、
これからつくりたい事業と組織の姿から整理してみてはいかがでしょうか。
自社だけでは整理しづらいことや、
事業計画と人材採用、業務や組織のあり方を一緒に考えてみたいことがあれば、お気軽にご相談ください。