売上の大きい取引先が、利益を残しているとは限らない

「この取引先からは、毎年まとまった売上がある」
取引先別に売上を確認すると、会社を支えている主要な取引先が見えてきます。
長く取引が続き、一定量の仕事を発注してくれる取引先は、経営を安定させるうえで大切な存在です。
そのため、売上の大きい取引先ほど、会社への貢献度も高いと考えやすくなります。
しかし、売上の大きさと、会社に残る利益の大きさは同じではありません。
売上は大きくても、材料費や外注費が多くかかっているかもしれません。
工期の変更や追加作業によって、当初の想定以上に人件費がかかっていることもあります。
今回は、ある建設関連企業の支援をもとに、工事別・取引先別に採算を把握することの大切さについて考えます。
売上総額だけでは、取引の実態は分からない
支援先には、長年にわたって取引を続けている複数の元請企業がありました。
施工力や納期対応への信頼が厚く、継続して工事を受注していました。
特に一部の取引先は、会社全体の売上に占める割合も大きく、重要な取引先として認識されていました。
一方で、取引先別・工事別の利益を一覧で確認できる資料はありませんでした。
工事の受注額は把握していても、その工事に材料費、外注費、社員の作業時間などがどれくらいかかったのかを、
完了後に振り返る仕組みが十分に整っていなかったのです。
そこで、過去の工事について、
・当初の受注金額
・最終的な売上金額
・材料費
・外注費
・社員の作業日数
・その他の経費
・最終的な利益と利益率
を工事ごとに整理しました。
すると、売上の大きい取引先であっても、
すべての工事が同じように利益を生んでいるわけではないことが見えてきました。
同じ取引先から受注した工事でも、
内容や契約条件、進め方によって、利益率に差があったのです。
同じ取引先でも、工事ごとに利益は変わる
なぜ、同じ取引先の工事で利益率に差が生まれるのでしょうか。
一つは、見積もりと実際の工事内容に差が生じることです。
建設関連の工事では、図面や施工面積をもとに見積もりを作ることがあります。
しかし、実際に工事が始まると、
想定より施工数量が増えたり、現場の状況に応じて作業が追加されたりすることがあります。
また、前工程の遅れによって自社の作業期間が短くなり、急いで人員を増やさなければならないこともあります。
反対に、現場へ入ってから待ち時間が発生し、工期が延びる場合もあります。
当初の見積金額が変わらないまま、作業日数や投入人数だけが増えれば、利益は少なくなります。
支援先でも、
・見積もりが固まる前に作業が始まった
・追加作業の条件を十分に確認できなかった
・工程変更によって作業期間が延びた
・実際の施工数量と見積時の数量に差があった
・取引先の予算に合わせて金額を調整した
といった事情が、工事ごとの採算に影響していました。
こうした要因は、売上の数字だけを見ていても分かりません。
工事が完了した後に、当初の見積もりと実際にかかった原価を比較することで、初めて見えてきます。
完璧な管理表をつくることが目的ではない
工事別の収支管理というと、細かな数字を入力する作業が増えると感じるかもしれません。
すべての材料費や作業時間を細かく集計しようとすれば、現場や事務の負担も大きくなります。
そのため、最初から完璧な管理表をつくる必要はありません。まずは、経営判断に必要な項目から始めます。
例えば、
・どの取引先の工事か
・どのような工事か
・当初と最終の売上金額はいくらか
・主な材料費と外注費はいくらか
・社員が何人、何日程度関わったか
・当初の予定から何が変わったか
といった情報です。
支援先でも、当初作成された工事一覧には、金額の大きい工事だけが入力されていました。
そのため、一覧表の売上合計と決算書の売上高に差が生じていました。
金額の大きい工事だけを見ていると、小口工事が積み重なったときの採算や負担を捉えられません。
一件ごとの金額は小さくても、
現地確認や人員調整、移動、材料手配、請求業務などに時間がかかる仕事もあります。
管理表を作ること自体が目的ではありません。
「どの仕事で利益が残り、どの仕事で想定以上の負担が生じたのか」を確認し、
次の判断に使える状態をつくることが目的です。
工事後の振り返りを、次の見積もりへつなげる
工事別の採算を把握しても、その数字を保管するだけでは経営は変わりません。
確認した結果を、次の見積もりや受注条件へ反映する必要があります。
利益が十分に残らなかった工事について、
・材料費の見込みが少なかったのか
・必要な作業人数を見込めていなかったのか
・外注費が想定より増えたのか
・工期変更への対応条件が曖昧だったのか
・追加作業を十分に反映できなかったのか
・そもそもの受注金額が低かったのか
を振り返ります。
原因が分かれば、次回から材料費と労務費を分けて積算する、追加作業の扱いを事前に確認する、
工期変更時の条件を整理するなど、具体的な改善につなげられます。
一方で、利益が確保できた工事についても理由を確認します。
工事の進め方が良かったのか。自社の技術や人員構成を生かせる内容だったのか。
外注と自社施工のバランスが適切だったのか。
利益が出た工事の共通点を探すことで、今後注力したい仕事も見えてきます。
一件の数字だけで割り切れない事情もある
建設業では、長年の取引関係や年間を通じた受注状況など、一件の工事だけでは判断しきれない事情もあります。
そのため、個別工事の利益率だけを見て、今後も受注するかどうかを機械的に判断するものではありません。
利益率が低くても、職人の稼働を維持できる、若手に経験を積ませられる、
年間を通じた取引関係の中で重要な役割を持つなど、数字だけでは表しにくい意味を持つ工事もあります。
一方で、取引関係を重視するあまり、どの工事でどの程度の負担が生じているのか分からない状態が続けば、
必要な条件の見直しや話し合いも難しくなります。
一件ごとの採算と、一定期間における取引全体の収益性。
その両方を確認したうえで、今後の受注方針を考えることが大切です。
収支を見ると、組織の課題も見えてくる
工事別採算を整理すると、費用の大きさだけでなく、その背景にある組織上の課題が見えることもあります。
支援先では、工事を安定して進めるために、継続的に外部の職人へ仕事を依頼していました。
外注は、受注量の変動に対応し、自社だけでは足りない技術や人員を補うために欠かせない存在です。
単純に減らせばよいものではありません。
一方で、自社の職人が対応できる仕事を増やせれば、
外注費を抑えながら、複数の現場へ対応できる可能性があります。
そこで、収支管理と並行して、職人の技術を整理し、
どの作業を誰がどの水準までできるのかを確認する取り組みも進めました。
つまり、外注費の問題は、価格や発注先の見直しだけでなく、
人材育成や技術承継ともつながっています。
数字を見て終わるのではなく、
その数字が生じている理由を、現場の仕事や組織体制までたどることが重要です。
売上と利益の両方から取引を見る
売上の大きい取引先は、会社にとって重要な存在です。
だからこそ、売上金額だけでなく、その取引によってどれだけ利益が残り、
どの程度の人員や時間が必要になっているのかを確認する必要があります。
そのうえで、
・今後も積極的に受注したい工事
・条件を確認したうえで受注したい工事
・見積もりや工程管理を見直したい工事
・自社の人材育成によって収益性を改善できる工事
を分けて考えます。
これは、利益率の低い仕事や取引先を単純に切り分けるという話ではありません。
工事ごとの実態を把握し、
長く無理なく取引を続けるために、必要な条件や社内体制を整理するということです。
もし現在、
「売上はあるのに、思ったほど利益が残らない」
「忙しく仕事をしているが、どの工事が利益を生んでいるか分からない」
「主要な取引先との取引を、今後どのように考えるべきか迷っている」
と感じているのであれば、まずは工事ごとの売上と原価を並べ、完了後の採算を確認してみてはいかがでしょうか。
自社だけでは数字を整理しづらいことや、
収支管理を今後の見積もり・営業・人材育成へつなげたいことがあれば、お気軽にご相談ください。